外反母趾を治すために足指の運動を取り入れたり、トレーニングで鍛えたりしている方は多いのではないでしょうか?
しかし残念ながら外反母趾の改善に、足指の運動やトレーニングは、実は有効ではありません。
それは医学的・理論的にも説明のつくことですし、実際にそれらを止めたおかげで外反母趾が治った方も多くおられます。
このページでは、なぜ外反母趾は足のトレーニングをしても治らないのか、逆効果にさえなることがあるのかについて、詳しくお伝えします。
外反母趾とはどんな状態のことか
外反母趾とは、親指の付け根辺りが横に広がり、出っ張ってしまった状態。
痛みは出ない方もおられます(痛みは無くても、その影響はあちこちに出ているので要注意です)
あなたが外反母趾かどうか、またその程度については以下の様なチェックでわかります。
外反母趾の基準とセルフチェック
足指トレーニングの種類
インターネットなどで検索すれば、外反母趾の方にオススメだというトレーニングや運動が、いくつも見つかるでしょう。
ここではその中でも代表的なものを挙げてみます。
タオルつかみ(タオルギャザー)
床や地面に広げたタオルを、足の指で手繰り寄せる運動。
足の指の掴む力をアップさせることを狙いとしています。
足指じゃんけん
本来手でする「じゃんけん」の動きを、足の指で行うという運動。
足指で様々な動きをすることによる柔軟性の強化や、可動範囲を広げることが目的のようです。
ボーマン運動
両足をそろえ、強めのゴムを両親指に引っ掛かけた状態で、それぞれの足を外側に広げる運動。
足指を広げる効果や、弱った筋肉を鍛える効果を期待しているようです。
つま先立ちトレーニング
上の絵の①の様に、その場で立った状態でかかとを持ち上げては降ろす運動。
足の前半分(前足部)~足指にかけて負荷をかけることで、それにまつわる筋肉を鍛えることが目的のようです。
足指を鍛えて、外反母趾が治ることはない
これらの運動が、外反母趾の改善にどれほど効果があるかについてですが、残念ながらこれらの運動で、外反母趾が改善する事は基本的にはありません
むしろ逆効果な場合が殆ど。
その理由は、まず足指トレーニングを推奨する背景は、外反母趾は足の指が使わないことで弱り、いわば退化して発生しているという考え方ですが、これがそもそも正しくないからです。
外反母趾はむしろ、足の指に過剰に負担をかけているために発生しているから。
このことは、外反母趾の発生の仕組み、本当の原因を知っていただけば、すぐにご理解いただけます。
外反母趾はどうやって発生するのか
外反母趾の発生のメカニズムを、できるだけ簡単に説明してみます。
実は人間の足は歩いている時に、ずっと同じ形をしている訳ではありません。
大きく分けると、2つの形を行ったり来たりしながら歩いているのです。
「しっかり足」と「ぐらぐら足」
一つ目の形は、皆さんがよくご存知の状態。
この形では土踏まずがあって、足の骨と骨の間が密に締まった状態。
これを専門的には回外(スピネーション)というのですが、ここでは簡単に「しっかり足」と呼ぶことにします。
そしてもう一つは土踏まずが落ちて、足の骨と骨が緩んでぐらぐらになった状態。
こちらも正式には回内(プロネーション)というのですが、ここでは「ぐらぐら足」と呼ぶことにします。
体を支えるためには「しっかり足」が適しています。
しかし歩くときはずっと「しっかり足」のままでは、着地の時の衝撃が直通で膝や股関節に行き、痛んでしまいます。
その衝撃を吸収するため、着地の瞬間だけあなたの足は考えなくても自然に「ぐらぐら足」の形に移行しているのです。
そして着地が終わった瞬間からすぐに「しっかり足」に戻る。
実はこれを繰り返して歩いているのです。
足の使い方に問題アリ
これを踏まえて、外反母趾はなぜ発生するか。
本来「しっかり足⇔ぐらぐら足」を交互に繰り返しながら歩いていたものが、様々な原因で「ぐらぐら足オンリー」で歩く癖になってしまっている方がおられるのです。
「ぐらぐら足」は衝撃吸収用の緩んだ状態なので、元々強固な状態ではありません。
それを常時使っていると足の各所に負担が大きく、足は横に伸びていってしまいます。
これが外反母趾の発生原因で、専門的には過剰回内(オーバープロネーション)といいます。
平たく言えば、「ぐらぐら足ばっかりで歩きすぎ」という病気のこと。
この「しっかり足⇔ぐらぐら足」の仕組みや、外反母趾発生のメカニズムは、別に私が見つけ出した特別な説ではありません。
アメリカなどの足の医療の発達した国では、実はごくごく当たり前の話。
実は足病医学の基礎中の基礎なのです。
逆効果の理由① オーバーワーク
ではこの外反母趾の発生の仕組みを踏まえて、なぜ足指を鍛えるのが逆効果になるか、についてを、おさらいしながら解説します。
ぐらぐら足と言うのは、衝撃吸収用の柔軟な状態ですから、踏ん張りが効かず不安定になります。
あなたは足元が不安定なとき、安定させようと力を入れるのはどこでしょうか。
大抵の人は足の指で踏ん張るはずです。
わざわざ不安定なぐらぐら足を常時使い、それを安定させるためにぐらぐら足のまま、足指に負荷をかけて踏ん張ろうとする。
その負荷に耐えきれなくなった筋肉や靭帯が、どんどん伸びて広がっていく。
これが外反母趾の原因。
だとすれば外反母趾の方が足の指を鍛えることは、疲弊した足指にさらに負担をかける、いわば「オーバーワーク」であることに、気づいていただけるのではないでしょうか。
例えば元フィギアスケート選手で有名な八木沼純子さんは、ご自身の外反母趾の治療経過をブログにあげておられます。
フィギアスケートの選手が、足の指を使わず弱らせてしまうようなことが、あるはずがありません。
またもし、つま先立ちで足指に負荷をかけるトレーニングが外反母趾改善につながるなら、ハイヒールは外反母趾改善に有効と言うことになるはずです。
なぜならこの絵の②ように、つま先立ちトレーニングの状態にぴったり合う靴を書き入れれば、ハイヒールになるのがわかるでしょう。
逆効果の理由② 動作に余計な癖がつくから
それでも足の指は、鍛えないよりは鍛えたほうが良いのではないか、マイナスにはならないのではないか、という方もおられると思います。
オーバーワークの問題を無視したとしても、それでも外反母趾の方はやはり、足指は鍛えるべきではありません。
その理由は足指を鍛えると、歩き方に変な癖がつくことが多いからです。
外反母趾は、ぐらぐら足オンリーで歩く癖で発生しているとお伝えしました。
要するに歩き方の問題です
という事は外反母趾改善のためには、正しい歩き方を取り戻すことが必要。
ですが正しい歩き方という動作の中に、足指を使うと言う動きは入ってはいないのです。
足指で踏ん張ったり、足指で地面を蹴る、掴むと言うのは、主にスピードやパワーが必要とされるスポーツや武道などで必要な動作。
単に普通のスピードで歩くときに、それらは必要のない動作なのです。
にもかからわらず、足の指を鍛えるトレーニング等をすると、その動きが癖になってしまい、歩く時にも足の指をつかむように、過剰に踏ん張るように歩いてしまうのです。
そうするとスムーズに歩けないばかりか、「ハンマートゥ」「マレットトゥ」などの、新たな足の病気を作り出すことにつながってしまうのです。
外反母趾は足指を鍛えなくても、歩き方の改善で治る
以上の様な二重の意味で、外反母趾患者の方が足指を鍛えることは、お勧めしません。
足の指は正しく歩けば自然に適切に使うようになっていますので、弱ることを心配する必要はありません。
では外反母趾は足指を鍛えなくても、本当に治るのでしょうか?
私はこれまで歩き方による外反母趾改善に取り組んできており、その詳細な記録を多く残しています。
その中のいくつかの症例を挙げてみます。
この方の場合は、左足は中程度後半だった外反母趾が、約4か月後には正常値一歩手前まで改善しています。足の横幅も1センチ以上も小さくなっています。
この方は80歳を超える女性。時間はかかっていますが、それでもやはり中程度後半の外反母趾が、正常値手前まで改善しています。
これらの改善は、基本的に歩き方の改善でもたらされたもの。
足の指には一切触れてはおりません。
そしてこのような例は、公開許可をいただいているものだけで1000例以上もあり、私どもにとっては珍しくないのです。
まとめ
外反母趾の改善のための足指の運動やトレーニングは、実は逆効果。
なぜなら外反母趾は足指を使っていないせいで発生するのではなく、むしろオーバーワークが原因だから。
「足指を鍛える動作」自体が、改善のための正しい歩き方習得の妨げになる場合も多いのです。
足指など鍛える必要はなく、適切な歩き方をマスターできれば、それだけで外反母趾は改善できます。
ぜひ取り組んでみてください。